8月18日(土)、大山村塾第3回講演会が行われました。
約160名の参加を得て、質疑応答も活発に行われました。
本日は、鳩山由紀夫元首相の講演要旨を紹介します。
これは、「高野孟のTHE JOURNAL」 http://bit.ly/vmdxubに掲載されたものを転載するものです。長文なので、3回に分けて投稿します。
では、どうぞご覧下さい!!!
〓〓〓 INSIDER No.639 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
民主党政権の3年間を振り返る
──鳩山由紀夫が「大山村塾」で講演
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鳩山由紀夫元首相は8月18日、鴨川市の「大山村塾」で「自らの反
省を含め民主党政権の3年間を振り返る」と題して約1時間、講演し、
その後に約40分間、会場との質疑応答を行った。以下に要旨を紹介す
る。
●自民党野田派か?
高野 この「大山村塾」のビラを鴨川市内や周辺に貼って歩くのだ
が、今回これを持って行くと「何で鳩山なんか呼ぶんだ!」と怒る人が
いまして(笑い)、 そういう時に私は申し上げたのだが、1つは、
気に入らないことが1つか2つでもあるとたちまちその人の全人格を否
定するといった風潮があるのではないか。私は子どもの頃に「あの子が
嫌いだ」と言うと、母親に「誰にだって嫌なところの1つや2つはある
わよ。あんただってあるわよ。嫌いなところは見ないようにして人と付
き合いなさい」と言われた記憶があるが、いまそういうことがなくて、
1つでも嫌なことがあると、皆で寄ってたかって悪口を言い募るとい
う、イジメにつながるような風潮があるのではないか。いいところはい
いところ、悪いところは悪いところとして、もうちょっとゆったりと、
お互いを認め合うという、言葉でいえばそれが「リベラル」ということ
だと思うが、それが大事なのではないか。もう1つは、その嫌なところ
の1つ2つというのは、マスコミ──まあ今日はマスコミがたくさん来
ておられて悪いですが──が作り出す虚像のようなところがあって、と
くにテレビというものは、ある失言1つでもすればそこだけを1000回
でも2000回でも繰り返すという、錐で傷口をこじ開けるような報道ぶ
りが横行していて、政治家の発言にしても、いろんな大臣が失言で首が
飛んだけれども、本質とは何の関係もない言葉尻を捉えてひきずり下ろ
すという傾向をマスコミが強めていて、それがイジメという社会的風潮
となって子どもにまで影響を与えているということがあるのではない
か。
ま、そういうわけで、メディアを通じて見る政治家ではなくて、リ
アル、実物の政治家に接して自分の目で自分の耳で確かめて貰う、とい
うことがこの「大山村塾」の1つの趣旨なので、今日は本物の元首相に
来て頂いた。鳩山さん、よろしくお願いします(拍手)。
鳩山 こんにちは。今日は高野孟さんのお招きで、イジメの対象に
なっている生の鳩山を(笑い)見て頂いて、ああやっぱりイジメられて
当然だと思って頂くか、いや必ずしもそうではないぞと思って頂くか、
私としては素の鳩山を知って頂こうと思う。これからの政治がいかにあ
るべきか、皆様の故郷に政治がどう関わっていくのか、是非皆様方と議
論させて頂き、私もヒントが頂ければいいなと思う(拍手)。
さて皆さん、懐かしいでしょう(笑い)、これが09年の衆院選の時
のマニフェストで私が表紙になっている。では、このマニフェストはご
覧になったことがあるか。ないはずだ。これは、もし私が10年7月の
参院選の時に総理を続けていたならこれで戦うつもりで作った幻のマニ
フェストだ。ここには、「民主党政権がこれまで取り組んできたことを
ご報告します」として、179の政策のうち実施できたのが39、一部実
施が54、着手済みが66、全く着手できなかったのが20と書かれてい
る。とくに出来たことは何かというと、予算編成を大幅に変えて、無駄
な公共事業を18%削減する一方で、社会保障費は10%近く増やし、ま
た教育予算も5%増やして、非常にメリハリのある予算編成ができた。
また天下りの斡旋禁止はできたが、天下りの根絶はできなかった。もし
私が総理として参院選を戦ったら、衆院選のマニフェストがどこまで
行ったのか、これからどうやるのかを選挙前にもっと丁寧に説明して、
もう少し辛抱してほしい、これから必ずその先を進めていくからと言っ
て戦うつもりだった。
そういう状況にならずに、自分自身の不徳の致すところで、総理を9
カ月弱で辞めることになり、せっかく民主党に期待したのにと仰しゃっ
て下さる方々に失望感を与えることになってしまった。その後に続く消
費税の問題などを見ると、民主党は変わってしまったなあと思う方も多
いのではないか。いま野田総理が、民主党が総選挙間近になって、こう
いうマニフェストを作ると言った時に、素直に聞き入れてもらえるだろ
うか。マニフェスト破りばかりしてきて、どうせ今度も守らないのだろ
うと言われてしまいかねない状況だと思う。
今の野田内閣、私から見ると余りにも自民党に近寄りすぎている。
せっかく政権交代をして、自民党政治と決別するはずだった民主党が、
なぜ自民党のほうばかり向いて政策を遂行しようとしているのか、大変
に気懸かりだ。その最たるものが消費税の増税という議論だ。3党合
意、民主党と自民党と公明党が歩み寄って、その過程で、例えば私が3
年前に約束した後期高齢者医療制度の廃止からも事実上撤退してしまっ
た。このようにマニフェストをボロボロにされながらも消費税増税の方
向に走ってしまう。
●原発再稼働とTPP推進
さらには原発再稼働の問題がある。実は私は原発については元々は推
進派だった。地球温暖化をもたらす二酸化炭素などのガスが増えてきて
いるという状況で、私は1990年比で2020年までに二酸化炭素を25%
削減すると国連でも国会でも誓い、その時には原発を十分に使うことも
約束した。しかし、昨年3・11であのような福島の大きな事故が起き
てしまった。
日本は、考えてみれば原発を作るには余りにも不適切な活断層が大変
多い島国で、日本としては基本的には原発に頼らないで生きていけるよ
うなエネルギー大国になっていかなければならず、それは十分に可能だ
と今は思っている。その問題を抱えながら、原発の再稼働が始まってし
まった。実際にはまだ福島の事故がどういう原因で起きたかも判明して
いない。国会の事故調査委員会の議論でようやく、津波だけではなく地
震そのものによっても大きな損傷が起きたことがほぼ明らかになってき
た。そのような中で原発再稼働を決めるとは、どう考えても理屈に合わ
ない話で、多くの皆さんが怒るのは至極当然だと思う。
ただこの問題は、それならば原発に頼らないで生きていけるような保
証、再生可能なエネルギー、あるいはバイオマス・エネルギーなどを駆
使しながら、新たなエネルギーを開発することで生きていけることを示
す責任もあろうかと思っている。
それから、TPP推進という問題も私の時にはなかった問題で、菅総理
になったとたんに推進の方向に大きく変わった。TPPについては多くの
懸念が払拭されていない。確かに私も、日本をもっと開かれた国にしな
ければならないということには当然賛成だが、そのことと、農業だけで
なく保険、医療、金融、郵政などあらゆるものを例外なく一挙に全部開
こうという強引なやり方は、アメリカを利するものであって、必ずしも
日本の利になることではなく、基本的に推進すべきものではないと思っ
ている。
また、事故が続いているオスプレイを、沖縄の皆さんが米軍の基地を
出来るだけ減らしてほしいという方向にあるのに、なぜ沖縄に配備する
ことを決定するのか、非常に気になるところだ。この4つとも、自民党
にすれば賛成だろうが、本来の民主党としては慎重でなければならな
い。この辺が「自民党野田派」──これは私が言ったことではなく、あ
るメディアがそう言っていると言ったところ、私が言ったということに
なってしまったのだが──自民党の野田さんであるかの行動ぶりが気に
なることは確かだ。
●原点は旧民主党
旧民主党が今から16年前、1996年に発足した。これは、高野孟さん
の理念でスタートした政党と言って過言でない。今までの政党と違う発
想をしよう、と。
1つは、2010年、すなわちその時点から15年先に日本をどういう国・
社会にするかを議論しようということ。「地域主権国家」、すなわち、
何でも国におんぶに抱っこしているのではなしに、町おこしをしようという時に
予算のために東京に陳情に行かなければならないというのではなしに、
地域のことは地域でしっかり権限と予算を持って決められるような
社会をつくろうではないか。
もう1つには、「時限政党」ということで、そういう国を15年後までに
作る役目を果たしたら解党して、蝶が脱皮するように、必要ならば
もう一度作り直そうということだった。そういう15年先を見た「未来からの風」
のような政党として民主党を立ち上げようじゃないかということになった。
それから[その時に対米政策の第1に掲げた]「常時駐留なき安保」
は極めて重要な考え方で、以来私が常に主張してきたことだ。日本とい
う国がアメリカによってある意味で守られているお陰で、戦後、一切戦
争がない国として今日まで辿ってきたことについては、アメリカに感謝
の念を持たなければならない。しかしだからと言って、日本の領土の中
にアメリカの軍隊がずっと居続けて、未来永劫守られ続けて行くと考え
るのは、世界史の中でも極めて異常な姿だと言わなければならない。一
国の安全と平和を守るのはその国の人たちであり、50年、100年かけ
てもそういう環境を作らなければならない。そういう発想の中で、いま
沖縄で起きている[普天間移設問題の]状況を考えなければいけないと
いうのが私の視点だった。アメリカ軍が常時駐留するのでなく、一朝有
事の時に駐留できるような態勢を新しい安保体制の中で作るべきではな
いかという主張だった。
また「自立と共生の友愛社会」を唱えている。一人一人が自立した考
えを持ち尊厳をもって行動したとしても、一人では生きていけない。だ
から多くの方々と共生する──考え方が違うことをむしろお互いに喜
び、認め合うような社会を作ろうではないか。それを「友愛社会」と呼
んできた。国と国との関係も同じで、考え方が違うことをむしろお互い
に尊敬し合うような、尊厳ある国と国のお付き合いを考えなければなら
ない。私はその先に「東アジア共同体」という構想も述べていた。この
ような旧民主党[の理念]の中に今の民主党の原点をもう一度掘り起こ
していくことが必要ではないかと思う。
●私がめざしたもの
私は[09年10月の]所信表明の中で「戦後行政の大掃除」をしよう
と言い、それはまさに明治維新に匹敵するような「無血の平成維新」な
のだ、そのためには一人一人の覚悟が必要だと言った。並大抵の政策転
換ではない。今までの官僚中心の、官僚任せの政治ではなく、天下りも
なくして無駄遣いをなくす。そして社会としては、一人一人が「居場
所」があり、それだけでなく一人一人が「出番」を見いだせる社会を作
りたいということで、その先に後で述べる「新しい公共」という発想が
あった。私の総理在任の9カ月間に前月比で若干自殺者が減ったのが嬉
しかった。もちろん年に3万人が自らの命を絶つ状況は続いていて、政
治の大きな責任を感じるが、ひょっとしたら自分にも「居場所」がある
のかな、「出番」が見いだせるのかなと思って頂いたのだとすればあり
がたいことだ。
「コンクリートから人へ」という標語を使って、コンクリート業界か
らは相当怒られたが(笑い)、これはイメージであって、公共事業に余
りにも頼っているハードな予算の使い方よりも、一人一人が幸せになる
ための予算のあり方をどう考えるかを言いたかった。別の言い方をすれ
ば「人間のための経済」を生みだしたかったということだ。公共事業の
予算を18%削り、教育には5%、社会保障には10%増やして、「コン
クリートから人へ」を実現した。当時、「地域医療が崩壊する」という
ことが言われたが、診療報酬を2年続きで2回上げることで、そのよう
なギリギリの状態から少しは改善されてきたのではないか。
また「地域主権」も所信表明の中で大きな位置づけをした。このよう
に、かなり新しいことを所信表明に盛り込んで、「命を守りたい」──
命という言葉を26回使って野党からそればかり言うなと批判されたが
──命を大切にする政治に変えようじゃないか。そして、何でもかんで
もお金をくれてやるからありがたく思え、ありがたいと思うなら選挙の
時に1票をくれというような、上から目線の政治はやめようじゃない
か。政治は、頑張って自立しようとする皆さんに、それとなく、そっと
背中を支えるのが本来ではないか、ということを盛んに申し上げた。
●私が出来なかったこと
それに対して、私がやらなければならなかったこと、十分にできな
かったことは、既得権益との戦いだ。いま発想を変えて、例えば予算ひ
とつでも大きく変えていこうとすると、今まで予算の下で甘い汁という
か利権にありついてきた人たちからすると、とんでもない奴らだという
ことになり、強い批判が出て来る。最初は、政権交代に戦々恐々として
模様眺めだった人たちが、自分たちの既得権の問題と分かると、相当に
厳しい反応を示すようになった。
既得権とは1つには官僚機構そのものだ。もう1つは大手の企業、財
界である。そしてもう1つは、今日も揃ってお出ましのようだが、大手
のメディアも既得権そのものだ。本来なら官邸の記者会見なども海外メ
ディアにもまったく公平公正に開かれるべきだと思っているが、いまだ
にそれは行われていない。もう1つは、アメリカ、あるいはアメリカの
意向を忖度した官僚たちというべきかもしれないが、アメリカと仲良く
やらなければいけないんだということで様々な仕掛けをしてきたのが実
態。さらにもう1つ言えば自民党で、自民党政治は既得権そのものだっ
た。今はその既得権の中にむしろ入り込んでしまったのが野田政権なの
かもしれない。鳩山が既得権と戦って敗れた。ならば既得権の中に、こ
ちら側に身を置いた方が得策で、そうすれば大手メディア、財界、財務
省、あるいはアメリカから「これはいい内閣だ」と評判を頂くことにな
るんじゃないかという発想で行動している節がある。
(中編に続く)
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