2012年8月22日水曜日

鳩山元総理講演[中]公開します!

昨日に引き続き、中編を公開します。
今回は、講演終盤から質疑応答の一部までです。

上編を公開したところ、「こんな感じでフランクに当時も話せばよかったのに」という
ご意見をいただきました。
元総理は何を語られたのか、引き続きご覧ください。

なお、この講演要旨は「高野孟のTHE JOURNAL」からの
転載原稿です。

(上編から読む)

[中編]


●普天間移設問題

 私がやるべきは、そのような既得権ととことん戦う姿を見せること
だった。だが、普天間問題で立ちはだかった壁に対して自分自身が勝利
を掴むことができなかったのは力不足で、申し訳なかった。

 私の沖縄への想い、これは私のみならず民主党全体で選挙の前に作っ
た「沖縄ビジョン」というものがあって、その中に、普天間の移設先に
ついて「将来的には海外が望ましい」と、また「最低でも」という言い
方をしていたかどうかは分かりませんが「県外に移設されるべき」であ
ると書かれてあった。

 何も私が一人で勝手にそう言ったのではなく、党としての考え方として
「最低でも県外」ということだった。当然、総理になったので、私が中心となり
この方向性を指し示してきた。沖縄の皆さんは、年来の彼らの想いを総理が
そこまで話してくれるということに喜び、期待もしてくれた。
私としてもできる限り県外に移設をしたいと最後まで思い、徳之島などにも
当たらせて頂いた。最初は前向きに考えていた方々も、メディアの壁というものが
あったと思うが、メディアなどで伝えられると急激なカーブを切り、徳之島はダメだ
ということになって、退路を断たれることになってしまった。

 私自身の力不足を晒すことになるが、官僚機構というものの壁は厚
かったということだ。私が沖縄の側に立って「最低でも県外」と言った
のに対して、当時、平野官房長官以外の大臣は誰一人、私が説得するこ
とが出来ず、むしろ防衛省、外務省といった役所にとってみれば、鳩山
の言っていることはとても無理だ、もう決まっていることなんだから辺
野古案に戻すしかないのだということで、最初から壁が厚かった。先ほ
ど言ったように、既得権と戦いを強引にでも行わなければならなかった
鳩山自身が、この普天間の問題で壁の前で挫折してしまい、それが総理
辞任の1つの理由になったことは間違いない。

 ただ、私がありがたかったことは、今年の5月15日に沖縄を訪れた
ときに、沖縄の皆さんに怒られるかと思って、私自身の不徳、力不足を
詫びたが、沖縄の皆さんは暖かくて優しくて、誰一人、私に対して文
句、批判をする方はいなかった。「いやあ、鳩山さんだけですよ、歴代
の総理の中で沖縄の側に立って『最低でも県外』と発表してくれたこと
はありがたいと思っている。ただ、上手く行かなかったことは残念に
思っているが、私たちとしてももはや態度は決めています」ということ
で、沖縄の人びとはほとんど辺野古案に対しては極めて否定的な気持に
なっていることは間違いないと思っている。

 ここで、もう一度、立ちはだかった壁を打ち破らなければならないと
思っているが、ひょっとするとアメリカ自身が、このまま行けば普天間
が固定化されてしまう、それはおかしいんじゃないかということで、レ
ビン議員など有力な一部の議員が考え始めていて、これは大変おもしろ
い方向が出て来る可能性があると思っている。私も沖縄の皆さんに迷惑
をおかけし、そのことが総理を辞める理由の1つとなった以上、極力、
沖縄の皆様にご理解頂けるような最終的な解決を見いだして行きたいと
思う。その考え方の根底にあるのは、最初に申し上げたように、自分た
ちの国は自分たちで守るという気概を日本人が持つことが大切だという
ことである。

 ただ、もう1つ総理辞任の真相を言えば、政策、すなわち普天間問題
だけが原因で辞めたわけではない。余り皆さんの前でもう一度口にする
のは控えたいという気持もあるが、「母から莫大な子ども手当を貰って
いた」という批判の方が私にとっては痛烈に厳しかった。沖縄の問題以
上に、自分の身に関わる問題で、多くの国民の皆さんに不信を与えてし
まったことが、総理辞任の一番の真相である。母には今でも感謝してい
るが、母が内緒で、「お前たち、資金がなかなか苦しいならば」という
ことで、援助をしてくれていたことを鳩山自身が知らなかったというこ
と、またそのことを私に知らせないように秘書が行動したことが事実と
して明らかになり、皆様方にご迷惑をかけることになってしまった。

 そもそも鳩山自身、政治家になる時に、自民党の政官業癒着の政治で
はダメだ、それを打破するには徹底的にクリーンな政治を作らなければ
いけない、自分自身が一番クリーンな政治だと思っていたところに、こ
のような不祥事を招いたことは、青天の霹靂だったが、皆さんにご迷惑
をかけてしまった。

●改めて民主党の基本

民 主党の基本は、1に「地域主権」、2に「新しい公共」、3に「東
アジア共同体」である。これを私は「友愛3原則」と呼びたいと思って
いる。友愛という考え方の下で国と地域の関係を考えた場合に「地域主
権」、その下で一人一人の個の立場[と社会との関係]で考えた場合に
「新しい公共」、そして国と国とのあり方で考えた場合に「東アジア共
同体」ということで、これを私がやりたかった3大原則と考えている。

 「地域主権」、いま橋下市長なども唱えているようだが、どこまで本
来の意味での地域主権となるかはこれから試されるところである。地域
主権とは何か。この図(写真参照)を見て頂くと、今までは、市町村よ
り都道府県が偉くて、都道府県よりも国が偉くて、国が[都道府県を通
じて]市町村に対して大きな権限を行使する関係だった。私は自分自身
の憲法試案の中で書いていることだが、まず市町村がど真ん中にあっ
て、その市町村の権限を必要であれば都道府県に、あるいは必要であれ
ば国に対して行使していくという発想であって、問題はなるべく皆さん
の身近なところで解決をすべきだという考え方だ。夫婦喧嘩が起きた時
には、それはコミュニティの中で解決すべき問題ではなく、夫婦だけで
解決すべきだろう。自分たちだけで解決出来ない時にコミュニティで解
決する、コミュニティで解決できないものはさらに大きな組織で解決す
るというやり方で、国の役割は限定的にして、権限と財源は出来るだけ
地域に委ねるということだ。これは「補完性の原理」に基づくもので、
さらに国も主権の一部を東アジア共同体に移譲するということも考えて
いきたい。

写真→ http://www.the-journal.jp/contents/takano/shasin027_1.jpg

 「新しい公共」というのは、時間がなくなったので簡単に説明する
が、今まで公の仕事はほとんど官が行ってきたが、これからはそうでは
なく、[公のことであっても]例えば市民の皆さんがグループを作って
解決しようというやり方になる。そのような活動を担う団体には寄付の
優遇政策を世に問うている。今までのような、公のことは何でもお上に
依存していたのに対して、個人、地域、企業それぞれが出来ることを協
力して支え合ってやっていこうということだ。

 「東アジア共同体」は、いま教育の分野では、日本、中国、韓国が協
力して大学生の単位をお互いに認め合うようにしようという制度が出来
上がってきて、国と国の関係も友愛精神を基調にしていきたい。東アジ
アが我々の生活空間と考えるからだ。

 韓国の李明博大統領の最近の発言は大変遺憾に思うし、また中国・香
港の方が尖閣諸島に上陸して逮捕され帰されたという事件もあった。実
は、2010年9月に尖閣諸島で漁船が衝突する事件が起きて以来、ロシ
アのメドヴェージェフ首相が北方領土を訪れるなど、近隣との間で様々
な事件が起きていて(写真参照)、このすべての事象は、私が辞めてか
ら起きているということを申し上げたい。私は「東アジア共同体」とい
うことを言い、それに対して中国も韓国も非常に納得してくれていた。
従って、中国や韓国との間で、少なくとも私が総理の時にはこういう事
件は起きていない。ロシアについても同じだ。これは大変残念なことだ
という事実だけを申し上げておく。

写真→ http://www.the-journal.jp/contents/takano/shasin027_2.jpg

●これからの展望
 
 民主党はもう終わりなのか、ということだが、今のこの状態のまま民
主党が選挙に突入したら、大変な惨状を招くことは間違いない。従っ
て、民主党が本当の意味で原点回帰が出来るのかが問われている。原点
回帰ができるかできないか、本来こういうことでスタートした民主党が
どうしてここまで変貌してしまったのかということが、もう一度問われ
て、そして立て直すことができるんだという判断をなされるように民主
党を仕組んで行く必要があると考える。自分としても、何も捨てるもの
はない立場なので、常に政治は国民の側に立って議論して行かなければ
ならないので、皆様方の気持ちを大事に考えながら積極的に行動して参
りたい。総選挙の見通しは、今日メディアの皆さんが一番聞きたい話な
ので、一切お話ししない。

 お暑い中、私の話に耳を傾けて下さった「大山村塾」の皆さんに感謝します。
ありがとうございました。

ーーー《質疑応答》ーーーーーーーーーーーーーー

高野  会場の皆さんから質問を受けます。

聴衆1 今日は鳩山さんの話が聞けるというので喜んで来たのだが、来
るまで本当に鳩山さんが来るんかいなという感じだったが、いやあ鳩山
さんに直にお話しを伺えて嬉しく思った。

鳩山  ありがとうございます。

●新しい民主主義の可能性

聴衆1 いま総理官邸前に非常に多くの人が自分の意思でデモに参加し
 ている。また沖縄の問題で「最低でも県外」と[鳩山さんが]言われた
 ことが大変大きな重みとなっていて、オスプレイの問題ではかなり自分
 たちが主張すれば何とかなるかもしれないし、何とかしなくてはいけな
 いという、一人一人の力みたいなものが出て来ているのではないか。そ
 れが地殻変動というか、これから日本が変わる契機になるのかなという
 気がしているが、どうお考えか。

鳩山  既存のメディアの存在に疑問を感じる人びとの意思が、例えば
 ネットなどを通じて大きなうねりを作り始めている。私はこれは新しい
 民主主義の流れとして、けっして無視すべきではないと思う。私は、原
 発再稼働反対、阻止を唱えている普通の方々がああいう大きなうねりを
 作りだしていることは、政治としてしっかり見ておかなければいけない
 と思った。それで私も一度参加して、自分の思いを述べた。「いま再稼
 働はすべきでない」ということの他に、「私もしばらく前まで官邸の中
 にいた」と。

  「官邸の中にいると聞こえるものが聞こえなくなってしまう。
 その厚い壁を取り払おうと私もいろんなことをやってみたが、なかなか
 簡単ではないことが分かった。そこで野田総理に、是非早い内に
 こういった方々の声が聞こえるような状況を作りたいと思っているので、
 そのことをこれから官邸に申し上げに行きたい」と言って、中に入って、
 藤村官房長官に申し入れた。野田総理も早い内に会いたいと一時は
 仰しゃりながら、枝野経産大臣が反対したら急に止めてしまって残念だ
 が、民主主義はやっぱり対話だから、いろんな方の話を出来るだけ多く
 聞くことが時の総理にとってとても大きな意味を持つと私は思う。おっ
 しゃるようなそういう新しい民主主義が政治を動かしてくる可能性は十
 分にある組織に動員された中での行動を超えた、今まで声を出さなかっ
 たような人びとの一人一人の声が政治を動かすような時代が、ようやく
 日本にもきたのではないか。

高野  民主党政権で変わることに大いに期待をしたが、やってみたら
 こんな具合だった。それで、これはもう、また別の人を選べばいいので
 はなくて、自分たちで行動を起こさなければダメなんだということを民
 主党が教えてくれたという、皮肉な一面がある。

  しかしそれは実は正しくて、明治以来ずっとお上にお任せで、
 お上が何をして下さるかということばかりを待ち続けて、喜ばされたり
 裏切られたりしてきた。常に国民あるいは市民は政治の対象、
 オブジェクト、政治をして頂く側に留められてきた100年余りだった。
 それが、何党がどうしたっていう話ではなくて、もう結局、自分たちで
 何とかする以外に将来なんて開けないんだ、と。
 何党がダメだったらまたこっち、何々首相がダメだったらまた
 こっちと、そう言っては何だが、鳩山さんを含めて何年も繰り返してき
 たわけで、それで問題は解決しない。この10年ほどの政治の流れがそ
 ういうことを教えてくれている。そういう意味も含めて新しい民主主義
 なのではないか。

鳩山  そうだと思います。ただやっぱり、最後に法律を作るのは政治
 家になるのだから、そういう方々が政治に参加するということが必要に
 なってくると思うので、次の選挙は政治家であることがハンディキャッ
 プとなって、むしろ自分がやりたいという意思を強く持っている人が行
 動を起こせば、国民の心をつかみ取る可能性が大きいのではないか。

高野  国民が動き出して自分の声を上げ始めるという時に、それを政
 治とか法律とか制度とかに繋げていく「回路」の役目を政党が果たせる
 のかどうかが問われる。だから野田さんもそういう時にサッサと会えば
 いいのに。はい、次の方。

[中編終わり]

明日をお楽しみに!

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