2012年8月28日火曜日

大山村塾第3回講演会 高野政談[後編]公開します!


高野政談[後編]を公開します。
民主党はどうあるべきか、質疑応答を通して明らかになっていきます。

[前編から読む]


●旧民主党の理念

  旧民主党の理念、私も加わったその時の議論が民主党の原点だという
 お話が鳩山さんからあった。私もそうだと思っている。それは今述べた
 ような、新しい発想に立って、ひと言で言えば「上からでなく下から」
 ということだが、社会のあり方の原理を変えていこうという努力が始
 まっていて、まあ躓いたり転んだりのようなことではあるけれども、い
 ろいろな分野で小さな変化がすでに始まっていることは見ないといけない。

  で、マスコミはこういうことに全く興味がない。片言隻句を捉えて、
 本質と何も関係ないところで一太刀浴びせて、あわよくば大臣を引きず
 り下ろしてやろうという、私に言わせれば「情報テロ」みたいな報道が
 横行している。そのことに国民も慣れて、何かそういう刺激がないと面
 白くないというようになっていく、非常に悪い循環が起きていると思う。
 そういう意味でマスコミを通じて見ていても本当に大事なところは
 伝わってこない。もちろん伝えていないという政権の側の問題もあると
 思うけれども、マスコミの非常に強い偏光フィルターを通じてしか政治
 を見られなくなっていることに、国民のほうがいつも心していなければ
 いけない。その上で良い悪いの評価をきちんとやりたいものだと思う。

●総選挙の負け方

  えー、総選挙。鳩山さんの口からは語りにくいだろうし、まあいつに
 なるのか──いつということでは、私は年末から1月ではないかと考え
 るが、もうちょっと政権がうまく行っていると、来年の7月の参院選ま
 で引っ張って行って勢いでダブル選挙というのが一番いいだろう、そこ
 でもう一回国民の信任を得て、落ち着いて、いよいよ改革本番に取り組
 むという流れになればいいなと思っていた。が、この間も何人かの方と
 話して、枝野経産大臣もそういう意見だったが、いまダブル選挙をやっ
 たら両方負けて酷いことになる、と。切り離して、12月~1月に総選挙
 をやれば、仮に民主党が野党になっても、参院の多数はまだ持っている
 という状況のほうが「まだマシだ」というようなことを言っていた。分
 けたところでそういうことになるのかどうかよくわからないが。

  ただ、その時に枝野さんにも申し上げたけれども、消費税、確かにこ
 の上げ方は乱暴きわまりないもので、国民に対する説得力もなく、不満
 は大きいけれども、しかし消費税では選挙は負けないと思いますよと
 言った。このタイミングでいいか、こういう説明の仕方でいいか、自民
 党とこんな格好で手を組んでいいか、などいろいろあるが、長い目で見
 て税を上げることなしには財政再建も、医療・福祉の発展もありないと
 いうことは、誰しもある意味では分かっている。このやり方がいいかど
 うかというと私も相当首をひねるけれども、長い目で見てどうなんだと
 言われるとまた別の議論になる──というくらいのことは、成熟した我
 が日本国民はかなり理解しているところではないか。だから消費税その
 ものではそんなに負けない、言い方を変えると、負けるとしても消費税
 を上げるということが第1要因にはならないと思いますよ、と申し上げた。

  しかし、原発が今のように曖昧だとこれは大惨敗することになるので
 はないか。脱原発なしには、いくら未来のことを語っても仕方がない。
 損だ得だという話を超えて、原発はイノチそのものの問題だ。そういう
 意味で、脱原発、そして単に脱だけではなく、ならば日本の将来にわた
 るエネルギー戦略をどうするのか、工程表も含めてはっきり打ち出して
 選挙をやれば、そう酷い負け方はしないだろう。とくに自民党は絶対
 に、10月にここへやってくる河野太郎さん1人を除いて、脱原発とは言
 えない。ズブズブでやってきた張本人だから。そういう意味で自民党と
 の違いもはっきりさせることができる。

  その脱原発を軸に、21世紀を通じていったいどういう社会を創りだし
 ていきたいのか、それこそ前向きの理念・展望をもう一回前面に出して
 選挙をやれば、勝つことはなかなか難しくても、いま言われているほど
 酷く負けることにはならないのではないか。またそういう前向きの姿勢
 を打ち出せれば、まあどういう結果となるにせよ、国民に勇気を与える
 ことになるのではないか。せめてそのくらいのことはやって貰いたいと思う。

  なお原発については、先週本屋さんに並んだ私の『原発ゼロ社会への
 道程』という本を持ってきて、後ろで割引価格で売っているので、ご関
 心ある方はお読み下さい。表紙の帯に「こんな世の中を残して死ねる
 か!」と書いてある。中の文章から編集者がとったのだが、本当に3・
 11以来、私は、こんな世の中を子や孫に残して死ねるかという意地だけ
 で生きているようなもので、そういう祈りのようなものを込めて書いた
 本です。是非ご一読下さい。

  あと10分ほど時間があるので、1人か2人になってしまうと思うが、
 鳩山さんもまだ席におられるし、鳩山さんでも私でもいいので質問をどうぞ。

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聴衆1 鴨川も3・11では地震も津波もほとんどなかったが、その後の
  風評被害はすごかった。そこで小泉さんの郵政選挙ではないが原発を焦
  点にした選挙をやってもらって、若い人たちを含めて意思を表す機会に
  してほしい。

高野  先ほど脱原発デモの話も出たが、国民の間に非常に深い怒りの
  感情が広がっていて、これはちょっと今までの政治的な次元とは異なる
  何か地鳴りのようなものを感じる。それに逆らったら、思いもかけぬ酷
  い目に遭うことになるということを、野田さんはじめ政治家が体で感じ
  ているのかどうか、よく分からない。しかし私は、どうなっていって
  も、そこが判断の分かれ目になる、そういう選挙になるに違いないと思う。
  繰り返すが、これはイノチの問題で、国民がイノチをめぐって本当
  に深く悩んでいるのに、政府や財界はオカネの話しかしない。停電に
  なったら産業が外へ出て行って、お前ら、雇用が減るぞとか。こんなに
  も大きく指導者たちの言葉と国民の深いところでの気持ちとがすれ違う
  ことは今まではなかったのではないか。そのクレバスのようなところ
  に、分かっていない政治家がボコボコと落ちていく、そういう選挙にな
  るのではないか。私は「こんな日本列島を子や孫に残して死ねるか」と
  いうところで国民は投票するのだと思う。はい、もう1人どうぞ。

聴衆2 脱原発と言うが、果たしてそれで日本は世界に通用する国にな
  るのか。あの事故は原子炉そのものの問題でなく、コントロールが利か
  なかったことによる人為的な要因ではないか。

高野  それについては私の本をお読み下さい(笑い)。津波との関係
  で最大の問題は、福島第一は元々30メートル以上の岸壁だったのに、そ
  れを海水を取り込みやすくするためにわざわざ10メートルまで削って建
  てた。同じことを女川原発でやろうとしたのだが、当時の東北電力の副
  社長が断固反対して、30何メートルの岸壁からもっと高くしろと主張し
  て、これが今回ほぼ同じ高さの津波が襲ったのに女川が無傷で済んだ最
  大の理由だ。そういう意味では至る所に人間によるミスがたくさんあっ
  て、そのどれが一番の原因かというのはなかなか難しい。

   ただこれはマスコミはきちんと書いていないし、4つの事故調査報告
  書でも書かれていないのだが、実は最大の危機は4号機にあった。4号
  機は止まっていたわけだが、このあいだ取り出したばかりの使用済み核
  燃料を原子炉のすぐ横のプールに置いてあった。どうしてすぐ横に置く
  のかというと危なくて動かせないからで、3年間プールに漬けて冷えた
  ら移動する。
   で、アメリカの原子力規制委員会の最初の判断は、電源喪失となると
  確実に4号機のプールが水素大爆発を起こすということで、それが直ちに
  オバマ大統領に報告されて、「80キロ圏外退避」の指示が在日アメリカ人に
  出された。これは実は80キロで済まなくて、菅さんが後に言うところの
  「首都圏3000万人退避を覚悟した」というのは、このことだったのだ。
  どうしてその起きて当たり前の4号機の核爆発が起こらなかったのか。
  2つの偶然だった。核燃料を出して建屋内の大型構造物の取り替え作業を
  やっていたのだが、それが不手際があって工事が事故当日まで伸びていた。
  それで工事の安全を守るためにプール周りの普段水を入れないところにまで
  目一杯水を入れていたので、電源ポンプが止まってもまだ水があった
  ということが1つ。もう1つは、プールの仕切り板が揺れでズレて、
  隙間ができて、溜めてあった水がまことに幸運なことにチョロチョロずーっと
  プールの中に流れ続けて、電源が止まって水が循環できなくなくなったのに
  大爆発を起こさなかった。

   だから、そんな本当に取るに足らない偶然が2つ重ならなければ、
  我々は全部ここに居ません。確実です、これは。どこへ行っているかわ
  からないが、ここは住めなくなっている。その危機に菅さんは官邸で孤
  独に対応した。その時に彼が東電に行って、何であんな乱暴に怒鳴るん
  だと思った方もいるかもしれないが、それは、マスコミが作り出した、
  繰り返し言うが、虚像だ。3000万人首都退避で日本壊滅ということを自
  分独りで防げるのか、壊れそうになりながら闘っていたのだ。アメリカ
  はそのことを知っていた、そうなって当たり前の状態に来ているという
  ことを。[東電もそのことを知っていたから、一時は全員退去を考え
  た。]それをマスコミが、菅が怒鳴りつけたとか、やっぱりイラ菅だと
  か、ドタバタしたとか、おちょくるわけだ。私は許さない、こういう報
  道を。これは菅さんを弁護しているわけではないし、彼を好きなわけで
  もない。人間的にはあんまり好きじゃない(笑い)。けれども余りにあ
  の言われ方は酷い。

   首都圏壊滅ということを覚悟して──このあいだ菅さんの話も聞いた
  が、チェルノブイリの事故ではゴルバチョフと現場の司令官が「死んで
  くれ」と言って兵士を送り込んで、上から土と瓦礫のようなものを命懸
  けで投げ込んだのだ。それで3000人くらい死んだ、放射能で兵士
  が……。菅さんは、官邸で夜中にフッと一人になった時に「俺はそれを
  やらなくちゃいけないのか。何千人も死ぬことが分かっていて、事故を
  止めるために突っ込めと言えるのか」ということを考えていた、と言っ
  た。本当だと思う。そういうあたり、本当に何が起こっているのか、全
  く今のマスコミは伝えていない。みんなスキャンダルにしたいだけ。菅
  という至らない首相が、不馴れな官邸にいて、ドタバタしてみっともな
  いねえという笑い話にしたいだけなのだ。こんなことで日本がよくなる
  と思いますか。もうマスコミの人は帰ったから言うが、いや帰っていな
  いのかな、テレビが帰っただけか……。

   本当に酷い。大多数の国民はあの時本当にどんな危機に直面していた
  のか未だに知らないままだ。野田さんも知っているかどうか分からな
  い。菅さんからの引き継ぎ事項になかっただろう。だから、再稼働なの
  だ。再稼働ということは、今日にも日本海で大地震があって大飯原発で
  福島と同じことが起きてもおかしくないということを許すことですから
  ね。ま、そういうことで、原発のことになるとどうも力が入ってしまう
  が、時間が来たので終わらせて貰います。
  ありがとうございました(拍手)。▲


以上で後編の公開を終わります。

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